1分200文字は本当? ― 変換を含めた日本語入力の実速度
タイピングサイトでは200文字を超えるのに、仕事でメールを書くときはあんなに速く打てていない。この違和感には、はっきりした理由があります。多くの測定が「日本語入力のいちばん面倒な部分」を測っていないからです。
測っているものが、サイトによって違う
タイピングの速度には「共通の物差し」がありません。同じ人が同じ日に測っても、サイトによって数字は倍ちがいます。原因は難易度ではなく、どこまでを1回の入力に数えているかです。
広く使われている測定サイトの多くは、画面に出た文をローマ字で打ち切ったところで1文の完了とします。ここには、ひらがなを漢字に変換する操作が入っていません。打ちまちがえたキーも自動で無視され、正しいキーを押すまで待ってくれるものもあります。つまり測っているのは「キー配置をどれだけ速く正確に叩けるか」であって、日本語の文章を仕上げる速さではありません。
いっぽう実際の入力では、ひらがなを打ったあとにスペースキーで変換し、候補を選び、Enterで確定するまでが1セットです。打ちまちがえれば自分でBackspaceを押して直します。この差が、体感と数字のズレを生みます。
変換のあいだに起きていること
「きょうはかいぎのしりょうをつくります」と打つとき、指の動きは止まっていなくても、頭のなかでは何度も判断が走っています。
④ちがえばもう一度スペースで次の候補へ → ⑤Enterで確定 → ⑥次の文へ
やっかいなのは③と④です。「会議」が「かいぎ」のまま出てきたり、「資料」が「試料」になっていたりすれば、目で見つけて選び直さなければなりません。この確認と選択は打鍵とちがって短縮の練習がしにくい部分で、変換を含む入力の速度を大きく左右します。
さらに文が長いほど、変換の区切り方を自分で決める必要が出てきます。一気に打ってから変換すると候補がずれやすく、こまめに区切ると変換の回数が増える。このバランスの取り方が、経験者と初心者の差が出るところです。
打ち直しで失う時間
ミスを自動で無視してくれない環境では、打ちまちがいはそのまま残ります。気づいて、Backspaceで消して、打ち直す。この一連で失う時間は、体感よりずっと大きく、ミス1回あたり3〜5打鍵ぶんといわれます。
くわしくは 速さより正確さ ― スコアが伸びる本当の理由 にまとめましたが、100文字打つあいだに5回まちがえる人は、実質15〜25文字ぶん損をしている計算になります。変換込みの測定では、この損失がそのまま数字に出ます。
数字で見比べる
測定方式ごとの目安を並べると、同じ「1分あたりの文字数」でも意味がちがうことがはっきりします。
| 測っているもの | 目安 | 変換 | 打ち直し |
|---|---|---|---|
| キー配置の速さ (一般的な測定サイト) | 150〜200=中級 200〜250=上級 250〜300=最上級 | 含まない | 含まない (自動で無視) |
| 実務の文章入力 (一般に言われる目安) | 1分150〜200文字で 事務作業に困らない | ふつう含む | 含む |
| かなりリアル打 (2分計測) | 変換と打ち直しの時間が そのまま分母に入るため 上の2つより小さく出る | 含む | 含む |
いちばん下だけ数字が小さくなるのは、打つのが遅いからではありません。変換で候補を確かめている時間も、打ちまちがいを直している時間も、すべて分母に入っているからです。同じ人がローマ字を打つ速さだけを測れば、数字はもっと大きく出ます。
なお、当サイトのランキングは公開したばかりで、参加者のほとんどが練習を始めたばかりの人です。いま並んでいる数字は「変換込みの一般的な水準」ではありませんので、自分の記録と見比べる目的では使わないでください。日々のお題での順位づけとして楽しむものだと考えてください。
どちらの数字を見ればいいのか
両方に役割があります。目的で使い分けてください。
キー配置を覚えている段階なら、変換のない測定のほうが適しています。原因が「指がキーの場所を覚えていない」ことに絞られるので、伸びが数字に素直に出て、練習の効果が分かりやすいからです。ホームポジションや運指を身につける時期はこちらを見ましょう。
仕事や課題で文章を書く速さを上げたいなら、変換込みの数字を見るべきです。ローマ字を速く打てるようになったのに文章の作成が速くならない人は、たいてい変換の操作でつまずいています。そこを練習しないかぎり、実務の速度は上がりません。
実務でどれくらい必要か
必要な速度は、自分が書くものの長さから逆算できます。日本語のメール1通はおよそ300文字なので、変換込みの速度で割るとこうなります。
毎分60文字 … 同じメールが 5分
毎分80文字 … 同じメールが 約4分
毎分100文字 … 同じメールが 3分
会議のメモのように「話す速さに追いつきたい」場面はもっと厳しくなります。日本語の話し言葉は毎分300文字前後といわれるので、要点だけを拾って書くとしても毎分80〜100文字は必要になる計算です。
逆に、考えながら書く文章では速度そのものより変換の正確さが体感に効きます。候補選びで何度もやり直していると、指がいくら速くても文章は仕上がりません。
まとめ
タイピングの数字は、測っているものを確かめないと比べられません。「1分200文字」はキー配置の速さの目安としては正しく、変換込みの実務速度としてはかなり速いほうです。自分の数字が思ったより小さくても、それは変換と打ち直しを正直に数えている証拠です。
大事なのは、伸ばしたい能力に合った物差しで測ること。文章を書く速さを上げたいなら、変換と打ち直しが入った状態で練習し、その数字を追いかけるのがいちばん近道です。